賃貸物件が老朽化したことにより、修繕や建替えが必要になることがあります。
建替えをする場合、入居者に対して立ち退きを要求しなければいけないケースもあるでしょう。入居者(賃借人)に対して立退料を支払う必要があります。
賃貸人が支払うべき立退料を、裁判例を参考にして紹介します。
賃貸物件の建替えによる立退料|法律上の基準
賃貸物件が老朽化して建て替えする場合、賃貸人は賃借人に対して賃貸借契約の更新の拒絶または解約の申し入れを行う必要があります。
しかし、「正当事由」がなければ法律上の効力がありません。(借地借家28条)
建物が倒壊寸前ですぐに取り壊さなければいけない場合を除いて、老朽化だけで「正当事由」として認められるケースは少ないようです。
正当事由として認められるには、補完する「立退料」の支払いが必要とするのが法律の考え方です。
しかし「立退料」の金額について、法律上に明確な基準はありません。
裁判例では、以下のようなケースがある程度です。
- 建物の老朽化の程度が高ければ立退料も低くなる
- 建物の老朽化の程度が低ければ立退料は高くなる(もしくは立退きを認めない)
立退料の金額はケースバイケースで決められているため、裁判事例を見て金額を検討する必要があります。
立退料100万円で契約解約の正当事由が認められた裁判例
築45年以上経過した賃貸アパートについて、立退料100万円(賃料の約20カ月分)で契約解約の正当事由として認められたケースです。
立退料100万円で契約解約の正当事由が認められた裁判例|裁判内容
裁判の内容を簡潔にまとめると、以下のような事案です。
- 賃貸人は、父親から築45年が経過した賃貸アパート(貸室4室、賃料は月額4万8,000円)を相続し所有している。
アパートの老朽化が著しくなり、耐震診断をしたところ大地震で倒壊の可能性が高く耐震補強工事で約1,800万円程度かかると言われた。 - それなら取り壊して土地を売却した方が良いと考え、入居者に退去してもらうよう解約の申し入れを進めた。
- しかし、10年以上居住している入居者1名だけが退去を拒んできた。
- 弁護士と相談して立退料として100万円を提示したが、この時点で入居者から「1,000万円を払ってくれないと退去しない」と言われた。そこでやむなく建物明渡請求訴訟を起こした。
- 裁判で賃貸人側は立退料として100万円が正当であると主張し、これに対して賃借人側は訴訟段階で(当初の1,000万円ではなく)200~350万円が妥当であると主張していました。
立退料100万円で契約解約の正当事由が認められた裁判例|理由
裁判所が立退料100万円で解約申し入れを認めた理由として、以下のように述べています。
- 建物の耐震診断の結果が「建物の縦方向と横方向で評価される評点(住宅が保有する耐力が必要耐力に占める割合を数値化したもの)が1階においては0.32と0.45、2階においては0.65と0.73とされた」(評点が0.7未満は「倒壊する可能性が高い」と判定される)
- 本件アパートの耐震補強工事費用が1,650万8,000円(消費税別)と見積もられていたことを認定し「老朽化が顕著である」
- 本件アパートは、本件解約申入れ時において築45年以上が経過しており、本件アパート全体の老朽化が顕著であって、かつ耐震性の観点からみても倒壊の可能性が高く、また耐震のための工事には相応の費用を要するものということができるから、原告らにおいて本件建物を含む本件アパートの取壊しの必要性が高いものということができる
- 本件アパートの状態や固定資産税評価額、本件契約の賃料等に照らしてみると、その方法として修繕が適切であるということができないから、この観点からも本件アパートの取壊し(又は建替え)の必要性が補強される。
上記の事情から、直ちに正当事由があるとまではいえないが、正当事由を基礎づける事実相当程度が認められるとされました。
立退料100万円で契約解約の正当事由が認められた裁判例|考慮事項
さらに以下の点を考慮して、立退料100万円が妥当とされたケースです。
- 被告に対する移転先の物件の紹介事実といった交渉経過
- 本件訴え提起時には本件アパートには被告の他に居住者がいない
- その他本件契約の賃料、本件アパートやその敷地の固定資産税評価額等の事情を総合考慮すれば、原告らによる申出額であり本件契約の賃料の20カ月分以上に相当する100万円を正当事由の補完としての立退料と認めるのが相当
建物の老朽化が著しい場合でも、賃料の20カ月の立退料になるケースとして参考になるのではないでしょうか。
まとめ
賃貸人が賃借人に支払うべき立退料は、法律に明確に記載されていません。
そのため、賃借人との間で交渉不成立になった場合、裁判をすることになります。
今回紹介した裁判例では、賃料の約20カ月ぶんが妥当とされています。
物件の老朽化度合いにより異なるものの、目安にしておくと良いでしょう。
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