築20年の賃貸マンションを相続した新米大家です。借主さんが退去するたびに大家負担で貸室の工事を行いますが、この退去の工事について「こうした方がよい」というアドバイスはありますでしょうか︖
退去工事は「貸室という商品づくり」
この工事は、つぎの借主を募集するための、「大家さんによる貸室の商品化」といえます。新しい借主に選んでもらえる貸室を用意する、ということです。その工事は「原状回復工事」と「価値を上げる工事」の2つに大別できます。しかし工事は行わずクリーニングだけでよし、と大家さんが判断されるケースもあります。その地域の最低ラインの賃料で募集するなら、畳や壁クロスが少し変色しているくらいは商品価値として問題はない、という判断です。あくまで大家さんが、つぎの募集条件を決めて、それに見合う「貸室という商品」を用意するときに、必要な工事があれば行うということです。しかし平成以降では、一定以上の入居期間を経た退去の際は、畳や壁クロスを無条件で新しくするのが通例になっています。新しくないと次の募集に支障をきたす、と多くの貸主が考えるようになったからですね。ただし、あくまでも退去後の貸室の工事は、「商品化のために必要か︖」という基準を忘れないでください。「工事ありき」ではないと思います。
原状回復工事で見過ごされるもの
原状回復工事は、退去した借主が入居する前の状態に(可能な限りに)戻すのが目的です。具体的には、畳の交換、クロスの貼り替え、床などの補修、故障した機器の修理、そしてクリーニングなどですね。この中で、ひとつ見過ごされがちな箇所があります。それは、コンセントやスイッチのプレート、各ドアの取っ手、各部屋の巾木、水栓や配管などです。もし、質問された大家様の築20年のマンションで募集中の部屋がありましたら確認してみてください。上に掲げた部位が新築時から一度も取り換えられていないのではないでしょうか。新しい壁クロスの中に、古く変色したスイッチプレートや巾木があると余りに目立つものです。配管の錆びやカビも目立っているかもしれません。こんなところに、内見に訪れたお客様は、何となく古さを感じてしまうものです。築10年を超えたら予算を組んで、退去ごとに少しずつローテーションで新しくしてみてはいかがでしょう。
価値を上げる工事の考え方
価値を上げるための工事とは、現状の間取りを大幅に変更するなど多額の費用の掛かるいわゆる投資を行う場合と、費用が掛からないものをローテーションで交換していく2パターンに分かれます。例えば以前住んでいた入居者が退去するタイミングで、賃貸オーナー様のまわりの環境に変化はなかったでしょうか?ここ数年で考えても、コロナウイルスの流行で人々の生活スタイルは大幅な変化を迎えています。リモートワークの増加や地域の世帯数など、オーナー様が所有している賃貸の稼働状況に変更が無かったのかをフィードバックするタイミングかもしれません。需要と供給がマッチしていなくては、健全な不動産経営は成り立ちませんね。このように空室ができたタイミングは、現状オーナー様の物件の抱えている問題を洗い出すチャンスかもしれません。コロナ禍で生活がどのような変化を捉えるかだけでも、より貸室の価値を引き上げることができるハズです。具体的な例で言えば、外から帰宅した際にアルコールや小物を置けるような小スペースや、脱いだ上着を掛けるためのコート掛けなどがあれば、未来の入居者にとっては嬉しいポイントの一つかもしれません。
十数年前までは6畳、6畳、4.5畳の3DKタイプが主流でした。ですが現代の国内人口と世帯数を考えると、世帯数は増えているものの世帯当たり人数は減っていることから、必要とされる部屋の様式にも注目です。これは賃貸を所有しているエリアによって需要が異なるため、一概には言えませんが、地域のニーズからズレている場合は空室リスクを負う可能性があります。このあとも20年30年と経営を続けるなら、思い切って3DKを1LDKに変更して、設備一式も取り換えて、壁や天井も素材や色を変えるというリノベーション工事が候補に挙がります。大家さんが目指す「貸室という商品」として、どちらが近いかで判断することです。
最後に貸室内の設備の交換について考えます。メーカーによると、エアコンや給湯器の寿命は10年が多いようです。しかし給湯器は部品交換で15年くらいは使えることもあるように思います。トイレ、キッチン、ユニットバスにも寿命があります。もし質問者様が築50年まで経営を続けるとしたら、エアコンは10年ごとに4回給湯器は約16年ごとに2回、その他は25年で1回が、最も費用対効果の高い交換機会ということになります。この目安を持っておくことで退去の工事の判断と、その準備がしやすくなるでしょう。
以上のように「退去の工事」には明確な目的があります。それは大家さんが目指す「貸室という商品づくり」です。そのためには少し長期的な視野も必要です。費用対効果を考えて、最も収益アップに結び付く手段を選べるように、これからもお勉強を続けてください。
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