【賃貸業界のニュース】不動産共通 IDと賃貸経営

「不動産ID」という言葉を耳にしたことはありますか︖ IDとは識別番号のことで、不動産を判別するための数字やアルファベットなどの番号を指します。なぜ不動産にIDが必要なのか︖ それは複雑な日本の住所に起因しています。

国交省は本年3月に「不動産IDルールガイドライン」を発表。日本経済新聞も4月27日に「不動産ID、提供始まる 土地取引の円滑化に期待」という記事を配信し、大手不動産会社などが参加する業界団体が作成したIDに期待を込めて報じました。複雑な不動産の仕組みを変えるものと期待されているようですが、一般には知られていないことも多いので、賃貸経営への影響と併せて紹介いたします。

 

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複雑すぎる日本の住所

不動産ID導入の前提は日本の不動産表示が複雑なことです。日本では「地番」という土地を区別する仕組みと、「住居表示」という建物を区別する仕組みが併用されています。例えば、東京タワーには「住居表示︓港区芝公園4丁目2-8」「地番︓港区芝公園4丁目407-6」と、2つの住所体系があります。異なる住所が2つあるだけでややこしく感じますが、京都市のように住居表示の仕組みがない(未実施)地域もあります。また、複数の地番にまたがって建物が造られていることも多く、その場合は代表地番が割り振られていますが、住居表示からその建物の代表地番を一発で調べる仕組みがありません。そのため、公図から人間が目視で調べるのが一般的です。さらに、建物の新築や取り壊しで住居表示が増減しますし、地番は土地を分筆するたびに増えていきます。そのうえ、日本語表示では「3丁目」「三丁目」「3-○-○」…のように、1つの住所を違う文字や記号で表すものがあり、これらは全てコンピュータ上では別の住所と認識されてしまうのです。
このような複雑な住所体系を市区町村単位でバラバラに管理しているため、不動産の取引は極めて手間がかかるのです。例えば、中古アパートを売買しようとすると、「市区町村の都市計画課、土木課、道路管理課、建築審査課、開発指導課、防災課、環境保全課、資産税課」、「法務局」、「水道局」、「電力会社」、「国交省」、「自治会」などに個別に問い合わせする必要があります。国交省が所管する研究会による試算では、こうした異なる窓口に対応するだけで3日半の時間を費やすそうですから途方もない労力がかかっています。こうした煩雑さを解消するために不動産ID導入に関する議論が活発になっているのです。IDがあれば、別部署が所管する名簿でも簡単に名寄せできるようになります。現在、不動産テック協会では不動産オープンIDとして建物と土地を18桁の数字とアルファベットで識別する仕組みを構築中です。また国交省も17桁の数字でIDの仕組みを検討中です。「2つのID︖……」と不安になりますが、数字やアルファベットは簡単に連動できるので混同する心配はないとみられています。

不動産IDは世界最先端の仕組み

不動産IDによって賃貸経営にどんな影響があるのでしょうか︖ 最も分かりやすい効果が、インターネットのサイトから「おとり広告」や「削除漏れ」がなくなることです。現在の不動産サイトの仕組みでは、仲介会社が掲載している物件情報と管理会社の入退去情報が連動しておらず、入退去時期に遅れて更新されます。そのため部屋に興味を持って問い合わせたのに、「他で決まっていました」という残念なやり取りが行われています。また、不届きな仲介店舗は意図的に相場より安く物件を公開して問い合わせを得ようとします。こうした不便は共通IDがあれば容易に防ぐことができると見込まれています。このような部屋探しの不便さは入居者の不満や負担になっていますので、スムーズな部屋探しができることで賃貸経営にもプラスになるはずです。

またリフォームや修繕の履歴を容易に記録できるので、工務店や管理会社レベルでIDを共有すれば、物件の状態を正確に知ることができるため査定がしやすくなります。特に賃貸住宅の売買のときには役立ちそうです。建物設備の現状把握に手間がかからないことで、維持管理にかかるコストが減り、建物価値の長期保全にもつながるかもしれませんし、設備や建材もIDに紐付けて記録しておけば交換や修理
の手間も少なくなります。

実は不動産IDのような便利な仕組みは諸外国にもほとんどありません。もし日本で実現すれば、世界最先端の仕組みとなり、様々な新しいサービスが生まれるきっかけになると期待されています。また、日本社会の重大問題になりつつある所有者不明土地も、それぞれの記録が連動しやすくなることで特定しやすくなるでしょう。駆けつけ警備や食品の配送サービス、高齢者への見回りサービス、郵便や宅配、救急車なども効率化されるとのこと。ぜひ便利になってほしいと思います。

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