今回は、「マンション管理」のお話をしたいと思います。
令和元年11月1日、国土交通省社会資本整備審議会・マンション政策小委員会に、とある興味深い資料が提出されました。
こう題された、一般社団法人マンション管理業協会によるヒヤリング資料です。この資料には、マンション管理の課題と未来を考える上で、とても興味深い内容が記されています。
今、この記事をご覧の方のなかには、ご自身でマンションを管理されており、何らかの問題意識を持っている方も多いかと思います。
「持っているマンションの管理が大変で、もう維持しきれない」
「いっそ売却して手放したほうが良いのか、それとも何か方法はないのか」
こんな風にマンション管理についてお考えの方は、ぜひご覧ください。
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マンション管理は年々大変になっている-その原因となる”2つの理由”
「マンションの管理が大変だ、つらい」
「年々、状況が厳しくなっているように感じる」
もしも、このような肌感覚をお持ちの方がいるとしたら、その直感は決してただの思い込みではありません。こうした実感が”あなただけの問題”ではないことが、先ほどの国交省の資料から伺えます。
資料では、マンションをめぐる環境変化として、次の2つが挙げられています。
- 管理コストの増加と財政難
- マンション住民の高齢化
こうした問題は、個人でマンション管理を行っている大家さんや、中小の賃貸管理会社の皆さんにとっても、決して他人事ではありません。その理由を知るためにも、2つの項目について詳しく見ていきましょう。
1:管理コストの増加と財政難
マンション管理が年々大変になっている理由として、まず“管理コストの増加”が挙げられます。
- 物件の老朽化が進み、大規模な修繕が必要になる⇒修繕コストの増加
- 人件費や建築コストの上昇
- 消費税の増税
ここに加えて、分譲マンションであれば「修繕積立金の不足」といった要素も加わってきます。積立金の当初設定が低すぎてしまい、修繕積立金が不足しているマンション管理組合は全体の34.8%。しかし、積立金を増額しようにも、出費への抵抗が強い高齢年金生活世帯が増えてしまい、なかなか増やせない…といった状況が指摘されています。
こうした問題は、賃貸マンションでも同じものがあるでしょう。
管理費が不足しているものの、住民は多くが高齢者。年金と貯金を崩しながら慎ましく暮らしている皆さんばかりで、とても家賃や管理費の増額をお願いできない。しかし管理費を増額しなければ、物件の維持に必要な修繕費用もまかなえなくなってしまう…。
そうしているうちに物件の老朽化が進行し、対策が取れなくなってしまいます。
こうした問題が、今、全国各地の多くのマンションで発生しています。
2:マンション住民の高齢化
先ほどの内容と少し重複しますが、「マンション住民の高齢化」そのものも、マンション管理の現状の大きな課題と国交省資料にて指摘されています。
平成30年度マンション総合調査によると、60歳以上のマンション住民の割合は、全体の49.8%。
入居者の半数が高齢者だというマンションが、平均的な水準となっているのが現状です。
これによる課題は、先ほどの管理費・修繕費の問題だけではありません。
国交省の資料によると、以下のような問題点が挙げられています。
- コミュニティ、防災、専有部生活サービス等のニーズの拡大
- 認知症等への対処の必要性
- クレーマー、管理会社への過度の要求の増加
国交省の資料で、「クレーマーや過度な要求の増加」にまで踏み込まれているのは、少し驚きますね。
高齢者にはクレーマーが多い、というわけでは無いと思いますが、日中働いている現役世代と比べて、家にいる時間の多い高齢者は、そのぶん身近な住まいのことに気がつく点が多いのかもしれません。
認知症などへの対処も、マンション管理の大きな課題の一つとして挙げられていますね。たとえば入居者の方が認知症などで徘徊に出てしまい、警察に保護された…となると、大家さんや管理会社へ連絡が行くことも多いでしょう。その対応に、一日がかりで人手を取られてしまうことも珍しくありません。
こうした事案が「たまにある珍しいこと」ぐらいなら対応できるかもしれません。ですが毎月何件も発生してしまえば、個人の大家さんや、人手の足りない中小の管理会社は、経営の危機に陥ってしまってもおかしくはないでしょう。
こうした問題が全国的に多発しており、国としても無視できない状況になりつつある-そうした危機感から、国交省の審議会でも議題に挙げられたのではないかと思います。
マンション住民の意識の変化-“終の棲家としてのマンション
高齢化と関連して、マンション住民の意識の変化についても、資料に述べられています。特に都市部において、「“終の棲家”としての役割」がマンションに求められるようになったというのです。
マンションに永住意識を持つ人は年々増えており、前回調査では52.4%だったものが、平成30年度調査では62.8%へと、一気に過半数を超える割合へと増加しています。
多くのマンションが建てられた1980年代後半~90年代は、購入者も多くが現役世代。「今はマンションに住んでいても、いつかは一戸建てのマイホームへ」と考えていた人も多いのではないでしょうか。ところが現代では、さまざまな社会情勢や経済状況の変化により、「今住んでいるこのマンションを、終の棲家としたい」と考える人が急増していることが、資料から伺えます。
2021年、これからのマンション管理に求められる5つの変革
ここまでの内容で、マンション管理の現状と課題について、次のポイントが見えてきました。
・管理コストの増加と財政難
⇒物件の老朽化で修繕が必要になったが、コストが増大している。それに合わせて管理費を増額したいが、住民は出費に抵抗感があり納得してもらえない。
・マンション住民の高齢化
⇒高齢入居者のニーズに対応するため、管理の負担が増加。マンションに求められる役割が「現役世代の生活拠点」から「終の棲家」に変化している。
こうしたマンション管理の現状と課題にもとづき、今後のマンション管理に求められる変革についても、国交省の資料にて提言されています。
いくつか特徴的な内容をご紹介しましょう。
- AI、ICT、IOTなどの先進技術の活用
- マンション運営に求められるニーズの変化に対応した、総合サービスの提供
- 行政の社会福祉部門との連携フローの構築
- 女性、若年層、外国人材など多様な人材の活用
- マンション管理において蓄積される日常点検・補修などのデータ活用
1:AI、ICT、IOTなどの先進技術の活用
まず、AI(人工知能)やIOT、ICTなどの最先端の技術を活用し、マンション管理業務の効率化や最適化を進める必要性が指摘されています。たとえば全戸にIoTによる高齢者の見守りシステムや、建物の異常を検知する人工知能システムの導入など、いくつか思いつくアイデアもありそうですね。
2:マンション運営に求められるニーズの変化に対応した、総合サービスの提供
こちらは国交省の資料内に具体的な提言はありませんが、入居者の高齢化への対応が念頭にあるものと思われます。「終の棲家」としてのニーズに応えられるよう、マンション管理業務そのものに大きな変革が必要ということでしょう。
3:行政の社会福祉部門との連携フローの構築
こちらの内容は、既に取り組まれているマンション管理会社さんや大家さんも増えているのではないでしょうか。健康問題や経済的な問題など、入居者に何かあった時に、スムーズに行政に対応を引き継げる体制を作っておくことも重要ですね。
4:女性、若年層、外国人材など多様な人材の活用
国交省資料の中では、マンション管理業全体の人手不足についても述べられている箇所があります。こうした課題への対応として、多様な人材の活用が呼びかけられています。
5:マンション管理において蓄積される日常点検・補修などのデータ活用
こちらもまだ具体的な提言はまとまっていないようですが、「チェックリストに丸をつけるだけ」ではなく、データとして日々のマンション管理業務にまつわる情報を蓄積し、修繕の効率化などにつなげていきたい意図があるのかと思います。
マンション管理への要求は今後さらに多様化・高度化
こうして主だった内容だけを見てみても、マンション管理業に求められる要素が多様化・高度化していくことは間違いないと言えるでしょう。
IT関連の要素を取り出してみても、
・管理会社のITリテラシー向上方策の検討
・管理業界へのIT関連事業者誘致方策の検討
といったことが記載されており、これからのマンション管理には高度なIT技術が必要になると言及されています。
これだけでも非常にハードルが高いと感じてしまいますが、さらに行政との連携や、マンション管理業そのものに求められるニーズの変化への対応、多様な人材の活用…と、まだまだ多くの変革が求められています。
さらに、こうした内容がただの努力義務ではなく、何らかの形で”法制化”についても検討されているようです。もしかすると、非常に高いハードルをクリアしなければ、法的にマンション管理業務を営めない-そんな未来がやってきてしまうのかもしれません。
今後ますます厳しくなるマンション管理にどう対応するべきか
マンション管理の現状課題、今後の見通し、そして国交省の審議会で議論されている対応施策の方針。いずれを見ても、今後、今まで通りのマンション管理が続けられる可能性は低いと言わざるを得ません。
このまま何もしなければ、高齢化と老朽化の波に呑まれて対応しきれず、いつかは手におえなくなってしまう恐れがあります。しかし、高齢化と老朽化に対応するためには、多大な資金と労力、そして何よりも変革が必要になります。
どのように進む場合でも、今後、マンション管理はますます厳しい状況になるでしょう。
とりわけ個人オーナーや中小の不動産会社・賃貸管理会社にとっては、要求されるハードルが高くなり、今まで通りに物件を維持するのが難しくなることも予見されます。
今のうちに所有物件の整理も検討を
こうした時代の流れを鑑みると、今のうちに所有するマンションを整理し、いくつか絞っておくことも必要かもしれません。たとえば3つのマンションを持っている場合、そのうち2つを売却して現金化し、その資金を元手に残った1つのマンションを「新しい時代」に対応させていく…といった方法論も考えられます。
個人のオーナーさんであれば、いっそのこと所有マンションを全て売却して現金化し、もっと管理コストの少ない投資へと運用方針を大きく転換させることも、考えておく必要があるかもしれません。
どのような方針を取る場合でも、しっかりと検討して、慎重に歩みを進めていきたいですね。
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