1. 日本が直面する空き家の増加と背景
近年、空き家の数が増加し続け、2023年10月の総務省の調査によれば、全国の空き家はついに900万戸に達しました。これは過去最多であり、5年前の前回調査からも51万戸増加しています。日本では、相続を契機とした「放置空き家」が特に目立ち、その数は385万戸に上ります。このうち20%以上は老朽化による腐朽や破損が見られる状態であり、住宅の劣化が加速している現状です。
空き家の放置がもたらすリスクは、防犯面での脆弱性や治安悪化、または地域全体の景観や価値の低下といった社会的な影響に及んでいます。また、地震や火災時の二次災害リスクの増加など、安全面におけるリスクも否めません。こうした背景から、空き家の管理に対するニーズが高まり、不動産業界には今まで以上にその対策が求められています。
空き家問題に対処するために、国土交通省は2023年6月に「空き家管理業に関するガイドライン」を発表しました。このガイドラインは、空き家管理ビジネスの標準化と促進を目的としており、以下の3つの管理ケースがモデルとして示されています。
空き家の管理相談ケース
相続などにより空き家を持て余している所有者が相談できる窓口として機能します。例えば、相続によって親から家を引き継いだものの、どこから手をつけて管理すればよいのか分からない場合に役立ちます。
建物外部のみの管理委託ケース
建物の内部には立ち入らず、外部のみを定期的に管理するケースです。例えば、建物の中を片付ける時間がない所有者が、外観の維持と安全性の確認だけを委託するニーズに応じます。
建物内部を含む全面的な管理委託ケース
物件の外部だけでなく、内部も含めて総合的に管理を行うケースです。相続した家が遠方にあるため頻繁に確認できない所有者が、物件を良好な状態で維持したい場合に利用されます。
これらの管理モデルを実行することにより、空き家が売買や賃貸に利用できる状態に保たれ、不動産業界は新たなビジネスチャンスを掴むことができるとされています。また、ガイドラインでは、空き家管理業から不動産売買や賃貸仲介への業務展開を推奨しており、国としても不動産業界の支援が空き家問題解消に寄与すると期待されています。
3. 空き家を見つけやすくするための新しいシステムの開発
国土交通省は現在、空き家の存在を簡単に特定できるシステムの開発に取り組んでいます。このシステムは、地図上に表示される建物にカーソルを合わせると、その建物が空き家である可能性を示すものです。上水道の使用状況や住民基本台帳、民間の地図情報といった複数のデータを活用し、実際の空き家であるかどうかを判定する仕組みです。
このシステムによって空き家の特定が容易になれば、空き家問題に取り組む行政や不動産業者の負担が軽減されるだけでなく、リフォームや賃貸、売買といった市場の活性化にも寄与することが期待されています。新システムの導入により、空き家の管理がしやすくなり、地域の治安向上や不動産価値の安定化に繋がると期待されています。
4. 空き家問題に取り組む不動産業界のビジネスチャンス
日本全国に広がる空き家問題を解決するためには、不動産業界が担う役割が非常に重要です。空き家管理ビジネスを通じて、物件の状態維持や安全確保が促進されるだけでなく、新たな不動産取引のチャンスを生み出す可能性があります。リフォームやリノベーションを経て、賃貸や売却が可能な物件へと再生することで、地域社会の活性化や住宅供給の多様化に寄与できるでしょう。
また、不動産業者が空き家の管理を通じて築いた信頼関係は、その後の不動産売買や賃貸仲介に発展することも考えられます。賃貸市場においては、省エネ性能や高断熱化といった付加価値が求められる傾向が強まっており、管理物件に対する投資価値が高まると考えられます。こうした取り組みによって、空き家管理業が不動産市場における重要なビジネスモデルとして確立されつつあります。
5. 増加する賃貸物件の「地下風俗」利用リスク
一方で、空き家管理の重要性が増すと同時に、賃貸物件が違法行為に利用されるリスクも見過ごせません。最近では、賃貸物件が知らないうちに地下風俗として利用されるケースが報告されています。今年9月には、東京都内で違法風俗店が摘発され、サブリース物件を悪用して風俗業者に賃貸していた不動産会社の社長が摘発される事件が発生しました。
近年、店舗型の風俗営業が規制される中で、違法業者は管理が緩い賃貸物件を利用した「地下風俗」を増加させています。特に管理人が不在でセキュリティが緩いマンションなどが狙われる傾向にあります。賃貸オーナーとしては、物件が違法行為に利用されないよう、管理体制を強化する必要があります。
6. 賃貸物件の不法利用を防ぐための対策とリスク管理
賃貸物件が地下風俗に悪用されることを防ぐためには、日常的な巡回と入居者の使用目的や職業についての厳格な審査が必要です。また、違法行為が疑われる際には速やかに警察に相談することが重要です。過去には、大阪市の雑居ビルで違法DVD販売をしていたテナントに部屋を貸していたオーナーが逮捕されたケースもあります。この事件では、オーナーが違法行為を知りながら賃貸契約を続けていたことが問題視され、結果として法的責任を問われました。
物件が犯罪に利用されれば、周囲の評判が下がるだけでなく、オーナーにとっても長期的な悪影響を及ぼします。都内の賃貸管理会社の代表者も、「怪しい出入りや騒音の苦情があれば即座に対応し、近隣住民の意見にも耳を傾けることが大切」と述べており、地域と連携した管理体制の強化が重要とされています。
7. 不動産業界が目指す未来:空き家問題解決と安全な賃貸市場の実現
日本全国に広がる空き家問題と、賃貸物件の違法利用リスクの解消は、長期的な取り組みが必要とされます。不動産業界は、空き家管理ビジネスを推進することで、地域社会の安全と資産価値の向上に貢献することが求められます。また、違法行為を未然に防ぐための巡回管理や情報共有、迅速な対応が、安心できる賃貸市場の維持に不可欠です。
国や自治体による空き家対策の支援と、不動産業界による積極的な対応が一体となって、持続可能な住宅供給の実現が期待されます。