
こんにちは!KOBE(神戸)売却ナビの恋水です。賃貸住宅の運営において、リフォーム工事は退去後の新たな入居者募集や物件価値向上のために頻繁に行われる重要な作業です。しかし、工事中の不注意や業者のミスにより、賃貸物件全体や隣接する居室に被害が及ぶこともあります。今回、リフォーム会社が手配した工事中の漏水事故に関して、貸主である建物オーナーが賃借人に対してどの程度の賠償責任を負うのかが争点となった事例(東京地方裁判所平成24年12月17日判決)を、弁護士北村亮典氏が解説してくれいてる記事を抜粋しています。※本記事は2023年4月20日時点の法令等に基づいた内容となっており、賃貸オーナーや関係者の方々にとって有益な法的知見を提供することを目的としています。
事案の概要
本件は、ある賃貸マンションにおいて、10階の空室を対象に建物オーナーがリフォーム工事を依頼した際に発生した漏水事故に関するものです。工事を担当したリフォーム会社の作業員が配管を詰まらせた結果、工事中に漏水が発生し、同じ建物内の9階の部屋にまで浸水が広がりました。浸水により、9階の賃借人は物件の使用に著しい支障を来たし、損害保険金だけではカバーできない被害が生じたため、慰謝料200万円などの損害賠償請求を行いました。
この事案では、賃借人側がリフォーム会社の不注意のみならず、リフォーム工事を依頼した建物オーナーにも賠償責任があると主張して訴えを提起しました。賃借人の主張の根拠は、建物オーナーには賃貸借契約に基づき貸室を使用させる債務があり、その履行をリフォーム会社が補助する関係にあるため、工事中の事故によりその債務が履行不能となったことにあるとされています。
裁判所の判断とその理由
本件において、裁判所は以下の点から建物オーナーの賠償責任を否定しました。
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貸主の債務不履行とは認められない
裁判所は、建物オーナーは賃貸借契約に基づいて貸室の使用を賃借人に保証する義務を負っていることは認めました。しかし、リフォーム工事を依頼した際の契約関係において、リフォーム会社はあくまで工事の請負者であり、建物オーナーの「履行補助者」としての性格は認められませんでした。すなわち、リフォーム工事に関する不手際が直接建物オーナーの債務不履行と結びつくものではないとの判断です。 -
工事業者の責任に帰すべきと判断
裁判所は、今回の漏水事故は工事を実施したリフォーム会社の不注意によるものであり、その責任は工事業者側に帰すべきであるとしました。よって、損害賠償請求は工事業者に対して認められる一方で、建物オーナーについては損害賠償責任を負わせることはできないと結論づけました。
具体的には、裁判所は以下のように判断文中で述べています。
「被告EUホーム(建物オーナー)は、本件賃貸借契約に基づき賃借人に対して居室の使用を保証する義務を負っているが、本件事故が貸主の同契約に基づく債務の不履行であるとは認められない。すなわち、リフォーム業者による不手際が原因であるため、建物オーナーに対する責任は認められない。」
その結果、工事業者には合計610万円の損害賠償が命じられ、さらに賃借人側には事故によって生じた損害(仕事用機材の故障、業務への影響、自律神経失調症やうつ病による治療費等)を理由に、合計230万円の慰謝料が認められました。
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判例の意義と今後の留意点
この判例は、貸主が依頼したリフォーム工事中の事故に関して、貸主自身が直接賠償責任を負うかどうかという点で重要な判断基準を示しています。具体的には、次の点が示唆されます。
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契約上の役割の明確化
建物オーナーとリフォーム業者の間の契約関係において、工事業者があくまで「請負者」としての立場であることを明確にし、万一の事故発生時に貸主の賠償責任を回避するための契約条項の整備が求められます。 -
賃貸物件の損害保険の重要性
貸主が設備賠償責任保険などに加入していれば、工事による損害の大半は保険でカバーされることが通常です。本件でも、損害賠償請求において慰謝料の算定など、保険での対応が不十分な場合に問題が発生する可能性があるため、保険の見直しが重要です。 -
リフォーム業者の選定と管理
依頼するリフォーム業者の過失が直接貸主の責任とならないよう、業者選定や管理体制の強化が求められます。工事開始前の十分なチェック体制や、施工中の進捗管理、トラブル発生時の迅速な対応など、リフォーム工事に関するリスク管理が不可欠です。
また、万が一本件と異なるケース、たとえばリフォームした貸室そのもので工事の不手際があり、その部屋の賃借人が直接損害を被った場合には、建物オーナーに一定の責任が認められる可能性もあります。このような場合には、貸主としての責任回避策や、保険加入の徹底が今後の課題となるでしょう。
まとめ
今回の東京地方裁判所平成24年12月17日判決において、リフォーム工事中の漏水事故により被害を受けた9階の賃借人による損害賠償請求訴訟では、工事を請け負ったリフォーム業者のみに損害賠償責任が認められ、建物オーナー(貸主)の責任は否定されました。裁判所は、リフォーム工事の不手際が直接貸主の賃貸借契約に基づく居室使用の保証義務の不履行には該当しないと判断しています。
この判決は、貸主がリフォーム工事を依頼する際に、工事業者との契約関係や保険加入など、事前のリスク管理の重要性を再認識させるものであり、今後も同様の事案に備えた対策が求められるでしょう。
賃貸オーナーや管理会社、また借主の皆さんにとって、本件はリフォーム工事中の事故対応や賠償責任の所在を明確に理解するうえで非常に参考になる事例です。トラブルの回避や適正な損害賠償対応のために、契約書の内容や業者管理、そして保険の適用範囲について十分に検討することが、今後の賃貸経営の健全化にとって重要となります。
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